私のメモ
武田さんは流石、プロだ。
お客さんを相手にしているときは、完璧なサービスマンになる。
とても優しい表情になる。言葉も柔らかくなる。
電話の向こうのお客様に対しても、笑みを絶やさない。
武田さん曰く「笑顔で話すと声が明るくなる。明るい声は相手に安心感を与える」だそうだ。

普段は常に怖い顔しているくせに、豹変とは正にこのことで……お客さんと接する時の武田さんは、完全なる『イケメン紳士』に変貌する。(彼の本性を知っている身としては、この『表の姿』は一周回って恐怖さえ感じる)


唯一意味不明な点といえば……料金などを計算するときに【そろばん】を使うところ。

実際に今も、パチパチパチ、と恐ろしく素早い指さばきで、ソロバンを弾いている。

時代錯誤すぎる。

「合計は、~~円でございます」

しかも計算は正確だ。
私なんて電卓の使い方すらままならないというのに。

「はい、左様でございます。…………有難う御座います。では、田中様、明日お気をつけてお越しくださいませ」

しばらくして、田中様とのやり取りを終えた武田さんが、受話器を置いた。
私はそのタイミングで、おずおずとお礼を言う。

「すみません、ありがとうございました」

すると武田さんは、怒鳴り声を上げた。仏のお面から、般若のお面に付け替えた瞬間だった。

「高畑!! お客様を待たせすぎだ!! お前がチンタラしている間の1分が、お客様にとっては5分にも10分にも感じるんだ!」

「は、はい、すみません」

「先程のように、自分で答えられない質問をされたときは、大丈夫だと思う、とか適当な答えをせず、『確認して、こちらから折り返しお電話致します。恐れ入りますが、5分程お待ち頂けますでしょうか』 とでも言って、電話を一旦切れ!」

「……はい」

「もし俺が田中様だったら、お前が保留している間に電話を切って、今頃、本社にクレームを入れている! 大体、お前は言葉遣いがなっていない! 尊敬語、謙譲語、丁寧語の区別もつかないのか!!」

な、長い。
しかも、急に話がややこしくなってきた。
なんなんだ、謙譲語って。
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