俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
俺は元々汚い字をより汚くした字で書いて軽く放るように彼女に渡した。
『瀬戸椿(せとつばき)お前は?』
『白石音生(しらいしおとは)』
「音生…」
なんて残酷な名前なのだろうと、柄にもなく同情してしまった。
この名前をつけた彼女の両親は、耳が聞こえないことを知らずにつけたのか、それとも知ってからつけたのか。
どうでもいいことなのに、何となく胸が痛かった。
そうやって耽けている俺の袖をちょんっと引っ張った音生は俺の同情すら知らずニコニコ笑いながら紙を渡す。
『いくつ?私は17』
健常者の俺はこんなにもつまらないつまらないって言ってしょうもない人生を生きているのに、障害者の音生はなんできらきらした顔をしているんだろう。
だけど、俺と一緒で学校に行っていないってことは、色々あるんだろう。
違うけど同じなのに、こいつと俺は別世界で生きているようだ。
これが、人の本当の違いなのかな。
俺にはなれない立派で清い生き方をしている音生は、俺をいたたまらずさせた。
逃げたい。