俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません


『俺も17。なんで学校行ってないの?』

お前もな、と言われそうな質問をすると、音生はペンを持ったまましばらく考え込んだ。
そしてやっと書いて、俺にそれを渡す。

『学校には居場所がないからかな。養護学校には行きたくなくて普通の所に行ったんだけど、浮いちゃった。椿は?』
『そっか。俺はなんとなく』

そっか、しか返せなかった。
俺自身はなんで行かないのかちゃんとした理由が自分でも分からないから、そんなことしか書けなかった。

『趣味はある?』
『特にない』
『私は歌が好きなの』
『聞こえないのに?』
『聞こえなくても分かるよ』
『なるほどね』
『家はここから近いの?』
『いや、一駅先に居候先がある』
『居候してるの?』
『叔父さんの家に。親はいない』
『死んじゃったの?』
『母親は死んだ。父親がどうしようもないやつだったから中学生の時に預けられた』
『そうなんだね。大変だったでしょ』

大変だったんだろうか。

今思えば、母親が死んだ時から俺の中の良いものが消えていって、父親のことに関しては何も感じなかった。

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