俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません


痛みを感じられるような心はもうなくなっていた。
だから、大変だったという気持ちはない。
でも、その気持ちがないことこそが大変なことなんだろう。


『別に、大変だとは思わなかった』
『強いね』
『お前の方が強いよ』
『なんで?』
『だってお前はなんか、きらきらしてる』

紙を受け取った音生はふふっと可笑しそうに笑った。

「なんだよ」

俺がそう言うと、音生は俺の顔を見て嬉しそうに微笑んで、紙を渡した。

『きらきらしてるってなに笑』

「うるせえ…」

急に恥ずかしくなった俺は、立ち上がって少しくしゃっとした紙を音生に渡した。

『別になんでもいいだろ。もう帰るから』

そして俺が決まりが悪いこの場から立ち去ろうと数歩歩いた所で、音生が俺の腕を掴んだ。

『また明日も喋ろうね』

音生に握らされた紙を読んで俺が小さく頷くと、音生はまたきらきらした嬉しそうな笑顔を見せた。


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