俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません



こうして、俺らは毎日公園に来ては数分話す仲になって、その話す時間も日に日に長くなっていった。
大抵は俺が気まずくなったりして逃げるように帰ることで終わっていたんだけど、また次の日も次の日もって、会うことを欠かしたことはなかった。


会話の内容は次の日になったらもう忘れ去っているようなことだった。
その内で、お互いポロポロとこぼすように自分の重たい身の上話も少しずつ明かしていった。

その中で知った音生の情報は、親がとても優しいことと、それとは正反対に、祖父の音生への当たりがとても強かったことだった。
もう今は会っていないというが、昔は耳が聞こえないことを理由に、宇宙人などという罵声を浴びたそう。
音生は普段は楽だから筆談をしているが、人の口の動きである程度は何を言っているか理解できるらしい。
そのため、耳が聞こえなくても、何度も何度も言われたその言葉ははっきりと理解できたのだという。


『辛かったな』

俺がそう言うと、音生はヘラっといつも通り笑ったが、その顔は少し悲しそうで、どれだけ音生が傷ついたのかすぐに分かった。


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