俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
俺が話したことといえば、叔父と二人で住んでいるということぐらいで、深い話なんて一つもしていなかったんだけど、それなりに信頼はするようになった。
ある日、俺がいつものようにベンチに座っていると、音生はギターを抱えてやってきた。
『なんでギター?』
と聞くと、音生はその言葉を待っていたと言わんばかりの笑顔を見せてペンを走らせた。
『今、前歌った曲の続きを練習をしてて、このギターを使ってやってるの。ちゃんと歌えてるか見てほしくて』
「なるほど……」
音生の歌は初めて会った時に聞いたが、それをどんな風に覚えたかは知らない。
自分には想像もできない世界だから、少し興味が湧いた。
『いいよ、聴かせて』
俺がそう言うと、音生は嬉しそうに笑って早速ギターをケースから取り出して用意し始めた。
『まずは覚えているとこまで歌うね』
音生はその言葉と同時に曲名を書いた紙を俺に渡すと、慣れた手つきでギターを弾き始める。