俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
『まずは、音程を上げていくから、合ってるとこで止めてほしい。その後、あ~って声を出すから丁度いい長さで止めて』
『りょうかい』
思っていたよりアナログな方法でびっくりした。
時間がかかりそうな作業だから、今歌ったとこまででもどれくらいの時間がかかったのだろうか。
「あ〜あ~あ~」
「そこ」
俺は音生の手をトンっと触って、止める場所を教えて、その後に長さも同じようにして教えた。
「あ〜あ~あ~あ~あ~」
「そこ」
地味な作業を何度も繰り返していって、十数分後に一小節分が終わると、音生はまた紙にペンを走らせ、それを渡した。
『次はこれを繋げても合っているかチェックして』
そう言うと、音生は先ほどまで教えていた一小節を歌い始めた。
「だから〜このほえ〜」
音程がほとんど合っていなくて、きちんと発音出来ていない箇所もあった歌声に、間違いを教えないといけないというのに、俺は何も言えず固まった。
俺が音程と長さを教えていた時は、なんだこんなに簡単なのかとか思っていたけれど、全然違ったようだ。