俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
『好きだから』
「好きだから…って」
『単純すぎない?』
『単純で良いんだよ。したいからしてるだけ』
『お前って何も考えないの?』
『考えるって何を?』
「何をって…」
俺は目線を足元に落とした。
『こんなんしても意味ないとか無駄だとか、これは無理だとか。したいからって何でもできるわけじゃないし』
…まして、バンドを組むなんて。
とは、何となく言えなかった。
『椿はそういうことを考えてるの?何をしても無駄だ、何も出来ないって、やる前から諦めてるの?』
音生の言葉が胸に刺さった。
確かに、俺は何もかもを諦めている。
色んなものから目を背けて、周りのもの全部をシャットアウトしている。
でも、全部無駄なものじゃないか。
世界なんて、生きることなんて、無駄じゃないか。