俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
『さあな。でも、お前は安直すぎると思う』
『どうして?』
音生が心底不思議そうに首を傾げる。
俺はその顔を見た瞬間、出てきた感情を止められなくなって、殴り書くようにメモを大量に書いては音生に渡した。
『だって、覚えるだけでめちゃくちゃ時間かかってるし、一曲歌うだけでも無謀すぎる。』
『それなのにバンド組んで歌いたいとか、なんでそんなに簡単に物事考えられるんだよ。もっと慎重になれよ』
『きっと歌ったって馬鹿にされる。誰も聞いてくれない。障害者だって目で見られる。それでも平気なのか?』
『俺のことだって考えろよ。お前に振り回されるほど暇じゃない。ふわふわして、馬鹿みたいなんだよ 』
『一人で勝手に夢見てたらいいじゃねえか』
キラキラして見えた。
音生はいつも、キラキラして見えていた。
デメリットとか傷つく可能性とか一切考えず、ただまっすぐ自分のしたいことをしたいと言った。
その姿が、俺はどうしようもなく痛かった。
俺からは遠い存在だから。
明るい希望に満ちた音生は、俺の心をえぐっている。
そんな風に感じると、無性に傷つけたくなって、思ってないことも紙になぞってしまった。