俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
ただの嫉妬かもしれない。
ただ、羨ましいだけだったのかもしれない。
音生は俺の一言一言をしっかりと読んで、ゆっくりとペンを持って何かを書き出した。
『夢を見るなら、椿と一緒がいい』
渡された紙に書いてあったのは、反論でも嘆きでもなく、やっぱり希望満ちた言葉だった。
俺はその綺麗な字をじっと見つめた。
感情なんて何も浮かばず、ただ、じっと見つめた。
だけど、頬に冷たい一筋の感触を覚えて、我に返った。
どういう理由の涙か分からなくて、俺は動揺しながら目元を拭う。
こんな吐き気のする綺麗事のような言葉を見て泣くなんて、意味が分からない。
自分の感情が分からない。
感動したのか?嬉しかったのか?
考えてもこの涙に名前が付けられなくて、俺は音生が隣にいることも人前でなく恥ずかしさも忘れて、自分の気持ちを考えながら止まらない涙を静かに拭った。
『椿、一緒に音楽をしない?きっと、苦しいことより楽しいことが多いよ。椿の悩みだって、なくなるかもしれない』