俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません


そんな俺に音生は新しくメモを渡してきて、俺はそれをまたじっと見つめた。
そして今度は返事を書く。

だけどそれは、そんないい返事じゃない。


『なくならない。お前と音楽をしたって、嫌なものは変わらない。全部消えればいいと思ってるよ』

『私のことも?私のことも、消えてほしいの?』

「っ………」

音生は真剣な眼差しを俺に向けている。
まっすぐで痛い目だ。


『ああ、そうだよ』

その言葉を書きかけて、やめた。
前までの自分だったら、音生と出会った頃の俺だったら、きっと書いていた言葉が、今の俺には書けなかった。

この何週間、色んなことを話して色んなことを聞いた。
そのほとんどがつまらない話だったけど、俺にとって、音生と話していた時間は、このつまらない世界の中で、唯一、つまらなくなかった時間だったことを、俺はもう知っていたからだ。

だからもう、音生に消えてほしいなんて思わなかった。


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