俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
きっと音生が消えたら、俺はつまらない世界を普通に生きれない気までしている。
『そんなわけないだろ』
俺はそう書いて音生に渡した。
音生はそれを受け取ると嬉しそうに笑って、こう書いた。
『だったら、私のために一緒に音楽をしてよ。椿の嫌いな世界が、私は好きだよ。だから、椿にはこの世界を好きになってほしい。椿が消えてほしいと思うものの数より、椿にとってかけがえのないものの数を増やしてあげたい。椿の不幸せを、幸せに変えてあげたい。一緒に、夢を追いかけたい』
まっすぐな言葉は嫌いだ。
だけど、
「……何言ってんの」
俺はふっと笑った。
だけど俺は、こいつのまっすぐな言葉が好きだ。
「どうしてそこまでまっすぐなんだよ、お前は」
二人で夢を見たいとか、柄じゃないのに。
だけど、でも。
「………はぁ」
俺は髪をくしゃっと掻き上げた後、ペンをメモ帳に押し当てた。