俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません


きっと音生が消えたら、俺はつまらない世界を普通に生きれない気までしている。


『そんなわけないだろ』

俺はそう書いて音生に渡した。

音生はそれを受け取ると嬉しそうに笑って、こう書いた。

『だったら、私のために一緒に音楽をしてよ。椿の嫌いな世界が、私は好きだよ。だから、椿にはこの世界を好きになってほしい。椿が消えてほしいと思うものの数より、椿にとってかけがえのないものの数を増やしてあげたい。椿の不幸せを、幸せに変えてあげたい。一緒に、夢を追いかけたい』



まっすぐな言葉は嫌いだ。

だけど、


「……何言ってんの」

俺はふっと笑った。



だけど俺は、こいつのまっすぐな言葉が好きだ。




「どうしてそこまでまっすぐなんだよ、お前は」



二人で夢を見たいとか、柄じゃないのに。


だけど、でも。



「………はぁ」

俺は髪をくしゃっと掻き上げた後、ペンをメモ帳に押し当てた。

< 22 / 74 >

この作品をシェア

pagetop