俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
「…はい」
俺はメモ帳を音生に渡す。
『二人じゃ、バンドなんて組めねえよ。他にメンバー集めるぞ』
文字を読んだ後、音生は驚いたように俺を見る。
「なんで驚いているんだよ、誘ったのお前だろ?」
俺は何だか可笑しくなって、ふっと笑った。
そう言うと、音生は俺の声なんて聞こえていないのに、嬉しそうに微笑んだ。
つまらない。
この世界はつまらないけど、彼女は面白そうだ。
彼女は、俺を面白い世界に連れて行ってくれる。
そんな気がした。
そして何より、彼女が夢を叶える姿を見たいと、心の底から思ったんだ。