俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
「……あ、音生」
集合場所の駅前に音生の姿を見つけ、俺は付けていたヘッドフォンを外した。
俺が声を掛ける代わりに肩を叩くと、音生はゆっくり振り返り、俺の姿を確認すると微笑んだ。
俺は予め持っていたメモ帳を音生に見せる。
伝えたいことは先に書いておいた。
『今日、前言ったように俺の知り合いとその知り合いに会う。二人にはまだお前の耳のことは伝えていないから、最初は分からないと思う。合流した後はとりあえずカラオケ行って音生の歌を聴いてもらったりバンド活動について話し合うつもり』
俺のメモを読んだ音生は頷いた。
「おー、お待たせ!椿!」
そこに、右手を振りながら光がやって来た。
相変わらず流行りに乗った、よく見る髪型と服装だ。
「おう、光。久しぶり。急でごめんな」
「いや、全然大丈夫。あ、紹介するわ。こいつ、俺の友達、つーか取り巻き?の一人。一応、ドラム弾けるらしい」
偉そうにそう言って光が肩を叩いたことで、控えめに俺らの目の前に来た地味な男。
怯えるように光をチラッと見た後、俺らに深く頭を下げる。