俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
「は、橋本伊月(はしもといつき)です…!よろしくおねがいします」
「ああ、よろしくな。今日は来てくれてありがとう。えっと……こいつのことなんだけど…」
俺は横目で隣にいる音生を見やった。
すると、光がいやらしい目で音生を見て、
「君が白石音生ちゃん?俺、光っていうの。よろしくね?」
と、握手を求めた。
すかさず俺はその間に入り、不思議そうに眉を顰めた光に苦笑いする。
「何だよ?」
「いやさ、実は、こいつ……耳が聞こえないんだ」
「はっ……?」
口を開けて固まったように俺を見つめる光。
俺は、ははっと抜けるような声で機嫌を窺うように笑った。
光は考えるようにパチパチと二度瞬きをした後、もう一度、俺の目を見た。
「えっ、は?ちょっと待て。お前、俺らとバンドを組もうって言ってたよな?」
「うん、言った」
「この子も、だよな?」
「ああ」
「でもこの子、耳が聞こえないんだろ?」
「そうだよ」
「………いや、ありえねえだろ」
冗談だろと言うように鼻で笑った光の目を、俺はじっと見つめる。
すると、光も俺が本気であることに気付き、次は気味の悪いものを見るような目つきをした。
「はあ?まじかよ。なんだそれ!」
「…確かに、音生は耳が聞こえない。でも、こいつは歌えるんだよ。しかも、すげえ上手いの」
「いや、でも、現実的に考えて無理だって」