俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
すると、彼女は徐ろに自分の持つ鞄からメモ帳を取り出し、それを俺に見せた。
俺は眉を顰める。
「は?何だよこれ……」
俺はヘッドフォンを耳から外しながらそのメモ帳を見る。
そこには、
『私は耳が聞こえません。筆談して下さい』
と、綺麗な字で書かれてあった。
「…ああ、そういうこと」
俺は彼女に分かるように少し大きめに頷き、彼女からメモ帳とペンを受け取った。
「……はい、書いたぞ」
そして、『邪魔だから退いて』と書いたメモ帳を返す。
彼女はそれを読んで、その隣に何かを書き始めた。
俺はもう一度、彼女の言葉を読む。
『嫌です。』