俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません


でも、彼女はすぐ俺の腕を掴んだ。
俺は振り返って、彼女を睨みつける。


「何だよ、離せよ」
「あー、あー」
「……え」

俺は目を丸くした。

耳が聞こえないはずなのに、彼女は声を出した。
透き通るような、綺麗な声を。


俺が驚き固まっていると、彼女は、すうっと一息吸って、

「みえーないものがーあるーのなーらーばーきみーの心が迷子ーになーってるーだけさー」
「お前……なんで」

俺は呆気にとられ、呆然と彼女を見つめる。

彼女は急いでメモ帳に何かを書き、俺の胸にそれをぐっと押し付けた。
俺はそれを手に取り、内容を読んだ。


『このフレーズを覚えるのに、一ヶ月かかりました。これ以外は歌えません。だけど、私は歌える。時間はかかるけど、ちゃんと歌える。耳が聞こえなくても、私は歌いたい。夢を叶えたいの。手伝ってくれませんか?』


「…………。」

読み終わり彼女の顔を見ると、彼女の瞳は真っ直ぐ俺を捉えていた。
やはり、俺とは別世界の住人だ。

「…絶対、無理だろ……」


それでも、諦めないって言うのか?
叶わない無謀な夢を追うって言うのか?




なんだそれ。
しょうもない。

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