俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません

長けているもの欠けているもの







「…えー、では、自己紹介を始めます」


深夜のファミレス。ドリンクバーとそれぞれが頼んだご飯が揃ったところで、和田が手を膝に置き改まった表情でそう切り出した。


「なんでお前が仕切ってるんだよ」

俺の不満を無視して、和田はメモ帳に何かを書いていく。


「しかもそれ俺のだし…」

「まあまあ。待っている間食べてましょ。冷めちゃいますし」

イツに諭されて、俺はハンバーグに箸をつけて肉を一口分切った。
そしてそれを口に入れた時、和田が顔を上げる。


「できた!音ちゃん、見て!」

和田が音生にその紙を渡す。


さっき名前を教えたばかりだというのにすぐにあだ名を付けて音ちゃんなんて呼んでいる。
人との距離感が、嫌に馴れ馴れしいやつだ。気に食わない。

ちなみにイツは俺らと同じようにイツと呼ぶことにして、俺のことは名前を呼ぶ気がないらしく、教えても興味がなさそうな返事をしやがった。
まあ、俺もこんなのに名前を呼んでもらいたくないし、俺だって和田って呼んでやる。

いや、和田とも呼ばない。

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