俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
こんな無神経で馬鹿そうなやつはサルだ。
サルにしよう。
よく見たら猿みたいな顔をしている。
俺がその良いアイデアに満足していると、和田、このサルは音生に渡した紙を音読し始めた。
「俺は、和田拓実。二十歳で、成駿大学社会学部二年。彼女は一か月いない。俺のことは拓実でも、たっくんでも好きに呼んでくれ。あっ、椿。お前は様付けで呼べよ」
「なんでだよ」
「で、俺は有名になりたい。とにかく、有名になりたい。有名になれればそれでいい」
「何回言うんだよ」
「ついこの前まで、4人組バンドを組んでたんだ。担当はギター。お前らが出た今日の大会も、そのメンバーで出る予定だった」
サル…拓実が真剣に話し始めたので、俺はツッコむのをやめた。
「でも、ありきたりな言葉で言ったら方向性の違いってやつで1週間前に解散になった」
「どうしてなんですか…?」
イツがそう問うと、どこか寂しそうに笑って、
「俺以外のやつは、遊び感覚でバンドをしてたんだ。俺だけが、本気だった。俺だけが、本気でやってた。俺だけが、本気で音楽を信じてたんだ」