俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
拓実の悲しそうな顔を見ていると、こいつなりにバンド仲間に絶望してショックを受けていたと分かる。
自分の信じているものが他のやつ、特に一緒の気持ちで信じてほしかった人には鼻で笑ってあしらわれるようなものだった時の悲しさは、多分、すごく重い。
しばしの沈黙の後、拓実はゆっくりと口を開いた。
「話を戻すぞ。そんなわけで、もう解散したし、俺がこの大会に来る必要はなかったんだけど、何だかやり切れなくてつい観客として来てしまった。哀愁みたいな、そんな感情にふけりながら演奏を聴いてたら、お前らが出てきた。音ちゃんの耳が聞こえないのにはびっくりしたよ。しかも歌ったらそこにいた誰よりも上手いの。感動した。これだって思った。解散したショックとか落ち込んだ気持ちとか、全部吹っ飛んだんだ。どうしようもなく、ギターを弾き鳴らしたくなった。お前たちと一緒に演奏したくなったんだ」
そう言うと、拓実は嬉しそうに笑った。
「まあ、つまり、そんなわけで、俺はお前らに声をかけたんだ。これからよろしくな。あと、俺は音ちゃんの代わりにギターを担当しようと思っている」
どこか照れ臭そうに笑う拓実に、イツと音生はニコニコ笑ってよろしくと手を伸ばした。
三人が握手するのを腕組みしながら見つめて、俺は不覚にも、良いバンドができそうだと思った。