俺のバンドのボーカルは耳が聞こえません
次の日も、俺はつまらない一日を更新していた。
口うるさい同居人の小言を聞きたくないがために早くに家を出て夜遅くに帰る。
大体昼間は公園で暇を潰す。
今日だって、それは変わらない。
聞き飽きた音楽を何度も何度も変えながら、俺は訳もなくため息をついた。
すると小さな足音が聞こえてきて、そちらに目をやる。
「……お前、」
俺はその方向の先にいた少女を目にして、最悪な一日の更新を予感した。
少女は近づいてくる。
俺は動く気にもなれず、ただその彼女を見つめた。
「何しにきた?」
俺はそう問うた。
もちろん、彼女には聞こえていない。
『バンド組もう』
しつこい勧誘だなと呆れる。
『嫌だ』
『名前なんていうの?』
俺の怪訝な顔なんて見えていないかのように、彼女は平然と俺の隣に座った。
面倒くさいからこの場から立ち去ることだってできるけど、かといって別にどこか行く所もなく、やる気もない俺は、そのまま彼女と話すことにした。