修羅場の色
 彼女は軽く息を着くと覚悟を決めたように話出した。


「私、もうあなたとの生活はうんざりなの?」


「美優の事か?」


「違うわよ! 今まで黙って我慢してきたけど、もううんざり! 上手く行かないのは全て人のせい。人の悪口ばかり愚痴ぐちと…… 二言目には自分の立場、立場って、何様のつもり? 立場くらい自分で作りなさいよ! あなたになんて、家族もおろか社員も付いていかないわよ! その上、ろくに仕事もしないくせに、人の持ってる物がすぐ欲しくなって、恥ずかしいと思いなさいよ!」

 彼女は今まで溜まっていた物を吐き出すように巻くし立てた。


「な、なに……」
 副社長の顔は、だんだんと険しい表情へ変わっていく。


「私、来月悠馬の終業式が済んだら、真美も連れてハワイのおばさんの所へ行く事にしましたから。しばらくおばさんが面倒見てくれるっていうし、就職先も見つかりそうだから。心配いらないわ」


「そ、そんな勝手に……  俺はどうなるんだ?」


「知らないわよ。美優さんにお願いしたら? この家も頭金は私が出したんだから、売る事にしたわ。詳しい事は弁護士さんに聞いて下さい」


「奥様、ちょっと待って下さい。私も困ります。私も先ほど、社長に辞表を出してきました。今日限りで退職する事にしたので、副社長とは今後一切会いません。私だって、人の悪口ばかり愚痴ぐち聞かされるのは、もううんざりです。いつも自分の事ばかりだし!」


「ええ。私だってうんざり……」


「私も、本当にいらないんです」


「くそっ――」

 突然副社長の声が上がり、拳を振り上げた。


 私の方に向かてくる、目を固く閉じ体を縮めたが……

 拳は飛んで来なかった。


 恐る恐る目を開けると、私をかばうように彼女が立っていた。
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