修羅場の色

「お父様、大変ありがたいお話ですが、私は子供達とハワイで新しくやり直したいと思います。今度は副社長をきちんと育てて下さい。申し訳ありません……」


「私も、一からやり直したいと思います」


「そうか、残念だ……」



　副社長は部下達に抑えられぐったりとしていた。


　副社長は縋るように彼女を見た。

「沙織……」


「さようなら……」



　そして副社長は、同じ目で私を見た

「美優……」


「さようなら……」


副社長は下を向き、私達に背を向けた。



「パパー」


「悠馬……」

　副社長の振り向いた顔は、何かを少し期待しているかのように見えた。


「ママと真美は僕が守るから！」


「……」
　
　副社長は黙って悠馬君を見ていた。


「じいちゃん！」


「なんだ？　悠馬」

　悠馬君は、彼女と真美ちゃんの前に仁王立ちで構えた。


「立場ってここでいいのか？」


　社長は、悠馬君の前に歩みより力強く頭を撫でた。



「そうだ！　それでいい！　ママと真美を頼んだぞ！」


「うん！」


　悠馬君は自信に満ちた笑みを浮かべた。



　副社長は何も言わず、悠馬君を見ている。



　副社長は本当に立場がなかったのであろう……


　この出来事を、副社長はどう受け止めたのだろうか？

　自分の不甲斐なさに気付く事が出来るだろうか？
　
　それとも、又、家族や人のせいにしていくのだろうか？



　でも彼女は、もうそんな事はどうでもいい。かかわりの無い人生を歩みたいと思っているのだろう？

　だって、私もそう思うから…




　副社長は、社長に促されるようにに玄関を出て行った。





「沙織さん手当！」


「ありがとう」


「沙織さん、どうして、私の事が分かったんですか？」


「ごめんなさい。たまたま。美優さんのアパトーに私の友達が住んでいてね。あまりに頻繁に主人の車が停まっているから心配して教えてくれたの。だから、これは使えると思ってね」
　
　彼女はまた、あの笑顔を見せた。


「沙織さん、言っておきますけど、使い方間違っていますからね！」



「ええっ！　そうなの？　でも、美優さんも、あんな嫌らしい趣味の車を停めていたら、人格疑われるわよ」


「ええ」

　そんな嫌らしい趣味の車の持ち主と結婚していたあなたはどうなんだ？　と言いたいが辞めておいた。


「ねえ、美優さん。今夜一緒にここで飲まない？　子供達も喜ぶし」


「ええ。はい。喜んで！」


「やった―」

　悠馬君も真美ちゃんも手を叩いて喜んでいた。