名前で呼べよ。〜幼なじみに恋をして〜【番外編】
俺には幼なじみが一人いる。


佐藤美里。女子。好きなものはココア。


幼かったときは、みいちゃん、なんて呼んでいた。


でも今はもう、距離感がごちゃごちゃになってしまって、どこまで踏み込んでいいのか、名前を呼んでもいいのかすら分からない。


距離感を計りかねる原因は俺だから、なおさら。


……初めに遠ざけたのは俺だった。幼くて精一杯だった、馬鹿な俺が遠ざけた。


遠ざけて、多分きっと、あいつを傷つけて。


傷つけたと思うのに、傷つけたのかもよく分からないくらいに、曖昧な距離になってしまったのだ。


……今でも俺は、美里って呼びたいのに。


呼んじゃ駄目なんじゃないかって。

呼んだら、この何とか繋がっている関係は、あんまり脆くて弱くて儚くて、すぐに壊れてしまうんじゃないかって怖くて、上手く言い出せずにいる。


『そうちゃん』


柔らな呼び声がよみがえる。


優しくて明るい、何度も聞いた思い出がよみがえる。


叶うなら、あの頃のように呼ばれてみたい。


涼やかなあの声で、朗らかなあの笑顔で、そうちゃんと、美里に名前を呼ばれたい。


美里が好きなのに。好きなんだけど。


……名前すら呼べてないって、あり得ないだろ、俺。


「っ」


そっと握りしめた手は、熱いほどに痛かった。
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