名前で呼べよ。〜幼なじみに恋をして〜【番外編】
ふわりと甘い匂いが漂った。


この時期になると毎年香る、チョコの匂いだ。


バレンタインデーはもうすぐだった。


ここのところ、もうすっかり冷えて、きつくブレザーをかき合せるような、足元から迫る寒さが続いている。


「バレンタインは?」


周囲から「佐藤くんにあげるんでしょ?」と確信がにじんだ質問をされるのは、毎年のこと。


何度も確認されている。


何年も前から、何度も何度も、毎年確認されている。確信されている。


……確かにあげようと思ってるけど。もはや習慣みたいになっちゃってるけど。


でも、よく話していた小学生の頃ならいざ知らず、距離があいてしまった今は、あげてもいいものか分からない。


——周囲から確信を含んだ確認をされても、たとえわたしがあげたくても、ただ準備して終わりということもあるのだ。


……去年は、そうだった。
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