名前で呼べよ。〜幼なじみに恋をして〜【番外編】
『あ、そうなの?』

『ん。いる』


頷いたそうちゃんは、ひどく優しく笑ってみせた。


一目で分かる、優しい微笑みだった。


『その人からのチョコなら食べるけど、他の人からのチョコは別にいらない』

『あーくそごちそうさま!!』

『は? ごちそうさま? ……は?』


もうそれ以上聞きたくなくて、きつく裾を握りしめてその場から走り去った。


……そうちゃんに好きな人がいるなんて知らなかった。


いるかもしれないなんて、考えないようにしてきた。


やっぱりわたしたちはただの幼なじみで。


……幼なじみでしか、ないんだ。


分かっている。


分かっているけど、ときどき無意識に忘れたがって、本当に無意識に忘れてしまうその事実を、こうやってふとしたときに突きつけられて、泣きたいくらいにつらくなる。


その日わたしは初めて、苦しいのはそうちゃんが好きだから、という言い訳をした。
< 23 / 62 >

この作品をシェア

pagetop