【短】君と桜色のキス
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あいつはいつも、どんどん先へと羽ばたいてしまう。
わたしは追いかけるのがやっとで、それでも全然追いつかなくて、焦ってばかりいた。
そうやって先に行ってしまうくせに、時々気まぐれで戻ってくる。何をしに来たかと思えば、わたしに手を差し伸べてくれた。
わたしなんか気にしないで、ずっと先へ行ってしまえば……もっと世界は広がるのに。
あいつはバカだって思う。
わたしなんかに構わないで。
そう思う一方で、わたしは差し伸べてくれた手を掴もうとしている。
まるで、わたしがあいつを利用しているみたいで、すごく嫌な奴に思えてくる。
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