一之瀬さんちの家政婦君
Episode.1 三億の女

苦しかった試験もようやく終わった。

あとは冬休みを待つばかり。

都内の一流大学 法学部に在籍する藤原 飛鳥(ふじわら あすか)は地下鉄をおりて大きな背伸びをする。

外のひんやりとする空気が心地良い。

クリパや忘年会、少し先をいけば新年会の予定が入っていたり、考えるだけでも楽しくなった。

お固い法律の勉強にも息抜きは必要なんだ。

アタシたちは機械じゃない。

血の通った人間だもの。

そんな前向きな飲み会が大学ではしばしば開催されていた。

仲間とワイワイするのは楽しいし、お酒も嫌いじゃない。

ちょっと出費は嵩(かさ)むけど“良好な人間関係”というお金にはかえがたいものが期待できる。

「……徹夜明けはさすがにキツイ」

飛鳥は人目も憚らず大あくびをする。

人目と言っても雑種犬の散歩をするおじさんだけなのだが。

この角を曲がれば我が城“高嶺荘”が見えてくる。

築五十年、八畳一間。

高嶺感ゼロの古アパート。

それでも、飛鳥にとってはやっと手に入れた自分だけの城だった。

早く帰ってシャワーを浴びて、温かい布団で眠りたい。

それだけを求めて歩みを早める彼女は気付かなかった。

背後に近づく怪しい足音に――…
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