一之瀬さんちの家政婦君
彼のせいじゃないと訂正するのが癪で、飛鳥はツンと首を振った。
「疑われるような事をしてるあなたが悪いんでしょ。人を監禁しといて、今さら泥棒に間違えられたからって何よ……」
「法律家を志す人間の言う事とは思えないな」
男の言葉に飛鳥はゾッとする。
自分の情報が漏洩されている可能性に気付いてしまったから。
「何でそんな事まで知っているの……?」
「自分が購入したモノの事くらい普通は知っているだろう。
藤原 飛鳥、二十一歳。母を早くに病気で亡くし、父子家庭で育つ。
大学からは独り暮らしを始め、ファミレスと家庭教師でやりくりしていた。しかし、金にルーズでギャンブル好きな父親のせいで身売りされた哀れな女ってところか……」
全部、正解。
怖いくらい当たっている。
何なの、コイツ……!
「とにかく、お前は今夜から俺のものだ。所有物らしく俺に尽くし、楽しませろ。部屋は空いているところならどこを使っても構わない。ただし、最奥の俺の書斎に入る事は許さない。入ったら命が無いと思え」
「ホント偉そう……」
でもちゃんと部屋は与えてくれるんだ。
飛鳥は男の顔をジーッと見つめる。
何かの罠かと疑うように。
「何だ、その目は……」
「いいえ、別に?」
飛鳥は彼の部屋から一番遠い部屋を選んで歩き出そうとした。
しかし、手を引かれて体ごと戻される。
「お休み」
飛鳥の額に男の優しい口付けが落とされた。
飛鳥は沸騰したみたいに真っ赤になり、男の手を振りきると「バカじゃないの!」と立腹してさっさと部屋に籠った。