一之瀬さんちの家政婦君
二重瞼でくっきりした目が泳いで、小さな唇が小さく震えて、不安を浮かべた眉はどんどん下がっていく。
櫂人は飛鳥の後頭部にそっと手を回し、ゆっくり自分の胸元へと引き寄せた。
“人の人生は人間の数だけ種類が存在するんだ”
櫂人の祖父で喜島珈琲店のマスターは、幼い彼に繰り返し教えていた。
客は色んな事情を抱えてコーヒーを味わいにやってくるから、店員は聞き手に徹する事。
決して自分から足を踏み入れない事。
櫂人はその言いつけを今の今まで守ってきた。
櫂人自身もその方が良いと思っていたから。
それでも今回ばかりは信念を守り通せそうもない。
「……話してよ。全部俺が聞くよ」
ただ知りたかった。
彼女の全てを。
「ありがとう……」
櫂人の胸の中で飛鳥は小さく呟いて、一つ一つゆっくりと語った。