一之瀬さんちの家政婦君
実父に借金のカタに売られ、一之瀬 和真によって三億円で買われた事。
彼の自宅マンションで家政婦として働いていた事。
本当は女子だという事実が櫂人に知られていると和真にバレて、解雇される前に自分からマンションを出てきてしまった事。
年末からここ数ヶ月の色々を語りだすと止まらなかった。
櫂人はそれを黙って聞いていて、作り話のような出来事に驚きを隠せないでいる。
飛鳥の話が一通り終わると、自分の気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
「ただ事ではないとは思ってたけど、ここまでとはね……」
「自分で言うのもなんですが、ありえない人生だと思います」
「そうだね。なかなかパンチあるよね……」
櫂人は深く頷く。
こんなことを他人に話したところで、返ってくるのは“頑張れ”とか“大変だね”とか当たり障りのない言葉だ。