一之瀬さんちの家政婦君
それ以上の言葉なんて飛鳥自身も思いつかない。
「何で解雇されて出てこなかったの?仕事辞めるみたいに出てくれば良かったんじゃね?」
「それは……そうなんだけど……」
飛鳥は奥歯に物が挟まったような言い方をする。
櫂人の言う通りで、飛鳥もそれは理解していて、それでも行動には移せなくて。
“逃げない”ってあれほど宣言していたにも関わらず、結局逃げるように出てきてしまった。
事実だけを切り取れば、借金のために一之瀬 和真のマンションに軟禁させらた哀れな女にしか聞こえない。
飛鳥もつい最近まで自分は哀れな女だと思って疑わなかった。
櫂人の疑問が腑に落ちないのは、あのマンションを……和真の傍を離れることが飛鳥の本意ではないから。