一之瀬さんちの家政婦君

***


櫂人が告白してくれたあの日から、飛鳥はずっと考えていたことがあった。

自分の今と未来の事。

今まで考える余裕さえなかった色んな事を。

櫂人は良い人だと思う。

飛鳥が出会った人の中でもダントツ上位の良い人。

彼の告白を受ければきっと大事にしてくれる。

飛鳥が憧れてやまなかった“普通”の生活も彼とならおくれるに違いない。

二つ返事で承諾できなかったのは、飛鳥の心の中でいつの間にか育っていた想いだった。


感謝、お詫び、寂しさ、悔しさ、悲しみ……



この気持ちが何なのか分からない。



神様はなんて意地悪なんだろう……



GPS付きのスマートフォンと一緒に、この気持ちもあの部屋に置いてこさせてくれれば良かったのに。


そうすればお世話になった恩人に迷惑をかけず、がむしゃらに働いて借金を返していけただろう。
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