一之瀬さんちの家政婦君
一日の仕事が少し早めに終わり、飛鳥は給料が入った封筒を持参して電車に飛び乗った。
和真のマンションから飛び出して、この港町を訪れる時に見た景色が窓の外に広がる。
漫画喫茶のネットでこの仕事を知って、コンビニで履歴書を購入して、とにかく必死だったのを覚えている。
あれからひと月、街は春の足音が聞こえてきそうだった。
「……着いた」
飛鳥は駅のホームで背伸びをする。
和真の自宅マンションは駅からすぐのところだ。
気合入れのために自身の頬をパンパンと軽く叩く。
ここまで来たら行くしかない。
改札を出てマンションに向かってまっすぐ足を進める。
一際大きくて豪華な建物が視界に入った。
つい最近までこの場所に住んでいたなんてとても信じられないと飛鳥は思う。