一之瀬さんちの家政婦君
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飛鳥が使用している部屋は一人じゃ広すぎるほどで、ベッドも大きくて布団もフカフカ。
パジャマなんて、飛鳥が着ている私服より何倍も高そう。
お風呂は余裕で足が伸ばせる大きさで窓から都内が一望できる。
クリスマスには今まで食べた事ない大きさのチキンとケーキを食べた。
それからも見た事ない食材で作られた豪華な食事が毎食並ぶ。
日がな一日ダラダラしていても衣食住がついてくる。
誰もが一度は憧れる夢のような生活。
自由さえあればの話だけど……
「もう無理!もう限界!この一週間、一歩も外に出てないんだよ!」
正月早々、飛鳥は豪華なおせち料理を目の前に憤慨する。
「気付いたらクリスマスも終わって、お正月がきてんじゃん!」
「時間は過ぎているんだ、当たり前だろ」
男はいたって冷静にものを言い、黒豆をつまんだ。
「そういう意味で言ったんじゃないから。てか、あなたの名前も未だに知らないんだけど。これってどう考えたっておかしくない?」
小型犬のようにキャンキャン吠えたてる飛鳥に対して、男は「うるさい……」と一掃して箸を置く。
「名前が知りたいなら聞けばいいだろ」
「いやいや、普通は自分から名乗るでしょう。アタシの名前を知ってたなら尚更」
「 何で俺がそこまで気を回さなければならないんだ」
「回してよ、それくらい」
「しょうがないな。名前は一之瀬 和真(いちのせ かずま)。これで、満足か……」
男は嫌々自らの名前を口にする。