一之瀬さんちの家政婦君

***

飛鳥が使用している部屋は一人じゃ広すぎるほどで、ベッドも大きくて布団もフカフカ。

パジャマなんて、飛鳥が着ている私服より何倍も高そう。

お風呂は余裕で足が伸ばせる大きさで窓から都内が一望できる。

クリスマスには今まで食べた事ない大きさのチキンとケーキを食べた。

それからも見た事ない食材で作られた豪華な食事が毎食並ぶ。

日がな一日ダラダラしていても衣食住がついてくる。

誰もが一度は憧れる夢のような生活。


自由さえあればの話だけど……


「もう無理!もう限界!この一週間、一歩も外に出てないんだよ!」

正月早々、飛鳥は豪華なおせち料理を目の前に憤慨する。

「気付いたらクリスマスも終わって、お正月がきてんじゃん!」

「時間は過ぎているんだ、当たり前だろ」

男はいたって冷静にものを言い、黒豆をつまんだ。

「そういう意味で言ったんじゃないから。てか、あなたの名前も未だに知らないんだけど。これってどう考えたっておかしくない?」

小型犬のようにキャンキャン吠えたてる飛鳥に対して、男は「うるさい……」と一掃して箸を置く。

「名前が知りたいなら聞けばいいだろ」

「いやいや、普通は自分から名乗るでしょう。アタシの名前を知ってたなら尚更」

「 何で俺がそこまで気を回さなければならないんだ」

「回してよ、それくらい」

「しょうがないな。名前は一之瀬 和真(いちのせ かずま)。これで、満足か……」

男は嫌々自らの名前を口にする。
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