一之瀬さんちの家政婦君
「満足なわけないでしょ。歳は?」
「二十五」
「意外と若い。じゃあ、勤め先は?」
「一之瀬コーポレーション」
「あの、有名財閥の……?もしかしなくても、御曹司?」
「…………」
“そうなんだね”と窺える顔。
「じゃあ、これで最後。アタシに自由を与えて?」
リズムに乗せて、最後は精一杯女らしくお願いしてみる。
首を傾げたりなんかして。
「調子に乗るな」
すぐにデコピンが飛んできた。
お色気作戦失敗。
まぁ、上手くいくなんて思ってないけど。
「でも、ホント無理!てか、大学は冬休みとしてもバイトはどうなっちゃったの?一週間、無断欠勤とか事件だよ……」
頭を過るのは今まで築いてきた私生活の事。
事件は大袈裟かもしれないが、確実にクビだ。
「バイト先には“急な引っ越しで続けられない”と伝えておいた。代わりの人間も紹介しておいたから問題無い」
和真は相変わらず冷静さを保っている。
突き付けられた現実に顔は真っ青、頭は真っ白になっているのは飛鳥だけ。
「それ、問題 しかないからね!あ~、職も失うとか有り得ないんだけど……」
もうダメだ。
飛鳥はガックリ項垂れた。