一之瀬さんちの家政婦君
「こう見えてもさ、一週間ずっと考えてたんだよ。どんな理由にしろ、あのゲージから出してくれたのは一之瀬さんなんだよね。
今もこうして温かい部屋で、ちゃんとご飯食べれてる事にも感謝してるんだよ」
「それで?」
「人として、ちゃんと借りは返したい」
「俺は貸しを作った覚えは無いけど」
「でも、お父さんがどっかで作った借金くらいはなんとかして返したいと思ってる。今の状態だと、一之瀬さんに肩代わりしてもらってるのと同じだし」
「父親の借金をお前が返すと?七千万だぞ。身体でも売る気なら良いところを紹介してやるが?」
「うっ、売るわけないでしょ!」
「話にならんな。文無し、当て無し、覚悟無しでどうやって返すんだか……。寝言は寝て言え」
和真は大きな溜め息をついた。
そして、静かに手を合わせ「ご馳走様」と席を立つ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!話はまだ終わってな――…」
飛鳥も慌てて席を立って彼の事を引き止めようとした時だった。
飛鳥に向かって柔らかな布の塊が放られる。
無論、投げつけてきたのは和真の方。
「何、これ……?」
「服だよ。見れば分かるだろ」
分かる。確かに服だ。
でも――…
「シャツの合わせが逆。これじゃ、まるで男の子……」
シャツ、セーター、パンツの三点セット。
女性らしさなど微塵も感じられないデザイン。
「望み通り、ここのハウスキーパーとして雇ってやろう。ただし、今後は男として振る舞ってもらう」
「何でよ……?第一、アタシは女子だよ?すぐバレるに決まってるじゃん」
飛鳥は怪訝そうな表情で首を傾げるばかり。
ハウスキーパーが男でないといけない理由がどこにあるのか。
“無理無理”っと首を振る飛鳥の予想を砕くがごとく、彼は「いや……バレないだろ、普通に」とハッキリ言い切ったのだった。