一之瀬さんちの家政婦君
Episode.2 珈琲店の男
七千万円の借金返済生活が幕を開ける。
幼少期より親一人子一人。
飛鳥にとって家事をこなす事は生活の一部として染みついた日課だった。
掃除、洗濯、炊事、裁縫、何でもござれ。
今思えば、これだけのスキルを身につけられたのは何一つ満足に出来なかった不器用な父親のお蔭だったりする。
まぁ……その父のせいでこのスキルを無駄に発揮する羽目になったのだが。
「洗濯物よーし!掃除よーし!」
飛鳥は皺一つ無くたたまれた洗濯物と掃除の行き届いた部屋を指さし確認して言う。
我ながら完璧。
「炊事は――…」
その時、来客を知らせるメロディが部屋に響く。
時間は夜七時丁度。
室内に設置されたテレビドアホンには、エントランスの風景と白いコック服姿の男性が一人。
和真が贔屓(ひいき)にしているレストランのシェフだ。
普段の食事にフランス料理を所望した時には、必ずこの店から料理がデリバリーされてくる。飛鳥とシェフは軽く顔馴染みになっていた。
飛鳥はいつも通りテレビドアホンを繋いで対応する。
『お世話になります。ディナーをお持ち致しました』
「はい。今、開けます」
飛鳥の指先がエントランスのオートロックを解除する。