一之瀬さんちの家政婦君
飛鳥は顔の下半分を隠すようにマスクを装着した。
素顔をなるべく晒さない為の対策だった。
性別を偽らなければならない訳は未だ不明。
“ピンポン”とインターホンが鳴ると、コックが待つ玄関に向かう。
“061228”
玄関の施錠を解除するパスワードを入力する。
出勤前、一之瀬さんがメモを残してくれていた。
少しは信頼してくれてるって事かな……
そうでも思わなければやっていけない。
ドアを開けた先に満面の笑みで「こんばんは!」と挨拶するコックがいる。
飛鳥も「こんばんは!」と会釈した。
そして、出来たての料理をワゴンごと受け取る。
「配達ご苦労様」
そう労った後、一之瀬さんから預かっていたチップをコックに手渡した。
「ありがとうございます!またお願いします!」
コックは深々とお辞儀すると部屋を後にした。
飛鳥はコックを見送って、料理をキッチンに運び込んだ。