一之瀬さんちの家政婦君

「夕飯もワインも届いてるよ」

コートをクローゼットに収めると、キッチンに戻って料理を配膳していく。

二人が席について、和真はワインをあけた。

高級フランス料理はやっぱり美味しくて、文句なんて言ったら罰が当たりそうだと思うのだけど。

飛鳥はおもむろにナイフとフォークを置いて「ねぇ……」と声を掛けた。

「何だ?」

「最近、体が重たい気がする……」

「病気か?」

彼は問う。その言葉がとても意外だった。

出会った頃は眉間に皺寄せて、眉をつり上げて、悪魔のような人だと思ったものだけど。

飛鳥はすっかり調子を狂わされてしまった。

和真は不機嫌そうに「何だ……はっきりしろよ」と催促する。

もし、病気だって言ったらこの人はどういう反応をするのだろう。

「……心配?」

聞くだけはタダだから。

答えを待つ間、心臓がドキドキしてしまう。

「まぁな。三億出して買ったものだし?」

「買ったものって……」

可愛くない言い方。

でも、心配はしてくれるんだ。
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