一之瀬さんちの家政婦君
「言ったはずだ。お前は俺を楽しませればそれでいいと……」
「そんな……。でも、栄養管理だって家政婦の仕事だよ」
「自炊がしたいなら勝手にしろ。俺は付き合ってやるつもりは無い」
彼は何食わぬ顔で再び自分の席に座った。
「何それ……、人がせっかく体のこと考えてるのに……」
「考えてくれなんて言ってない」
「どうせアタシはお節介者ですよ。不健康続けて生活習慣病になったって知らないから!」
飛鳥はフンッと機嫌を損ねて食事に戻った。
好きな時にキスして、気に入らないと突っぱねる。
本当に娯楽用として買われたんだ。
言葉通り、高価な買い物だったから元が取れないと困るだけ。
腹立たしいったらない。
「ご馳走様でした。明日から大学始まるんでお先に失礼します」
飛鳥はペコッと頭を下げて食器を片す。
それからは、一言も口を利かないまま自室に籠った。
ベッドに倒れ込む。
広い天井が視界を覆う。
何でこんなに腹が立つんだろう。
彼にとっての自分の存在意義くらいはじめから分かっていたはずなのに。