一之瀬さんちの家政婦君
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翌朝、飛鳥は和真から一台のスマホを手渡された。
このマンションに初めて訪れた日、荷物が無いと大騒ぎしたことを思うとちょっと申し訳ない気分になる。
『好きに使って構わない』
優しいのか優しくないのか実態がいまいち掴めなくて、久しぶりのキャンパスライフも彼の事を考えて首を傾げるばかり。
私物の中でたった一つ残ったのが、偶然にも上着のポケットに入れてあった学生証だけ。
大学図書館で本を借りる時に必要な学生証がある事にこんなにも喜びを感じるなんて思わなかった。
年末年始とゴタゴタした分、少し勉強しようと法律書を数冊借りた。
気付けば夕方。
空はすっかり暗くなっている。
「いけない!もうこんな時間……」
飛鳥は借りた本を手に図書館を飛び出した。
スマホで時間を確認すると気持ちはますます焦る。
今晩から家政婦として自炊を始めるつもりだったのだから。
自分からやると豪語しておいて、夕飯の時間に間に合わないなんてあり得ない。
大学からの帰路は足早になっていく。
転がり落ちるように坂道をどんどん下って。