一之瀬さんちの家政婦君
「学生証を拾って届けてくれた事には感謝しますけど、知らない人とお茶するほど暇無いので」
どこの馬の骨とも知らない人間に振り回されるのはもう懲り懲り。
このまま流されてなるものか!と思う反面、面倒臭くてちょっと諦めかけている自分もいたりして。
男性はさっきまで有無も言わさず引いていた手をパッと離す。
「……確かに。素性は大事だよな。俺は喜島 櫂人(きじま かいと)。カフェ店員やってます」
突然の自己紹介。
本当に掴みどころがない人。
その丁寧な態度に飛鳥もつられて「どうも」とお辞儀をしてしまった。
「はい、これで素性はハッキリしただろ。お茶しに行こう」
解放されたばかりの手はすぐに繋ぎ直された。
「えっ⁉そういう問題じゃないんだけど……」
飛鳥の反論も虚しく、繋ぎ直された手は目的地に着くまで離される事はなかった。