一之瀬さんちの家政婦君


「じーちゃんの許しが無いと店のメニューには加えられない。だから、その前に飛鳥ちゃんに味見して欲しいんだ。いいだろ?」


櫂人はカウンターから身を乗り出さんばかりに必死で頼み込む。

飛鳥自身も料理はするが、専門的なものは何一つ知らないズブの素人だ。

しかし、こんなに頼まれたのでは断るに断れない。

「僕でよければ……」と頷いて、味見役を引き受けることにした。

飛鳥は備え付けのグラニュー糖とミルクを適量注ぐ。

彼のキラキラした視線を一身に感じながら、ホットコーヒーを一口啜った。
「美味しい……」
あまりの美味しさに素直な感想が口から零れる。

苦みとコクが口内で絶妙に絡み合った。

普段から飲んでいるインスタントコーヒーとは違った飲み物のよう。


「だろ!ケーキも食ってみてくれよ」


飛鳥は勧められるままチーズケーキを口にする。

しっとりと芳醇(ほうじゅん)で口当たりが滑らか。

自然と表情筋が緩んでしまうほどに。

飛鳥のそんな顔をカウンター越しで満足そうに見つめる視線。

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