一之瀬さんちの家政婦君
カフェ店員という仕事を心から愛しているのだと分かる。
「そう言えば、肝心のお爺さんの姿が見えないけれど……」
飛鳥は口からフォークを離し、思っていた疑問を投げかけた。
喫茶店は開いているのに店主である彼の祖父の姿がどこにも見当たらないなんておかしい。
「じーちゃん、いま入院してんだよ。ちょっと前に腰やってさ。俺に任せればいいのに、年甲斐もなく重い物持つから……。あー言うのを“年寄りの冷や水”ってんだよ」
呆れたような物言いの裏に見え隠れする慈愛に満ちた眼差し。
彼がいかにおじいちゃん子であるかが窺えた。
「お爺さん、早く良くなるといいですね」
「あぁ、ありがとう」
和やかな会話に美味しいスウィーツ。
こんなに普通で穏やかな時間を過ごすのはどれくらいぶりだろう。
幸せそうにケーキを食べる飛鳥を見て、櫂人がクスクスと笑う。
「なに……?」
理由が分からず飛鳥が尋ねると、彼はソッと飛鳥の口元に指先を触れさせた。
「お弁当じゃなくておやつ付いてる」
彼の人差し指にはケーキの欠片がくっついている。
「……どうもすみません」
子どもみたいで恥ずかしくて、飛鳥は顔を俯かせた。