一之瀬さんちの家政婦君
「Ladies and gentleman!ようこそ、X'mas夜会へお越し下さいました!
早速、ゲストの皆様へのサービス品のお披露目。昨夜、仕入れたばかり!」
司会者のトークに合わせてゲージはゆっくり上がり、ステージ上に来るとバンッとスポットライトが集中した。
「眩しっ……」
飛鳥は堪らず目を細めた。
薄目を開けた状態であたりを見ると、思い思いの仮面をつけた人間が観客席に多数座っていた。
皆、一様に飛鳥の事を見ている。
「男を知らない生娘は、お客様の思いのままに!さぁ、五千から……」
「誰が生娘だ、コラ!」
仰せの通りの処女なくせして、見栄を張ったツッコミを入れてみる。
飛鳥にだってプライドがあった。
しかし、そんな事を言ってる間にも「五千五百!」や「七千!」などとみるみる数字が上がっていく。
飛鳥は自らの体を競売にかけられていた。
道楽の玩具にする為、金持ちのたちはこぞって飛鳥を値踏みする。
「八千!」
「九千!」
ここで声が断ち切れた。
「……九千で宜しいですか?他にございませんか?」
司会者はこれでもかと言わんばかりに盛り上げていく。
九千の札を上げた最前列の男。
トドのように太っていて、いかにも毎日良いもの食べてますという体型。
“自分に決まりだ”と密かに口元が笑っている。
これだから金持ちは嫌い……
富裕層に対する飛鳥の嫌悪感はこれ以上にないほど膨れ上がった。
「他になければ九千で……」
司会者が木槌を振り下ろそうとした瞬間、最後列の席から「三億」と落ち着き払った低い声が響き渡った。