一之瀬さんちの家政婦君

一番後ろの中央で足を組んで腰掛けている男。

他と同じように仮面で顔を隠しているが、かなり若い。

“三億”という言葉にあたりはザワつく。

絶世の美女ならばいざ知らず、飛鳥のようなマニア受けしかしなさそうな女に三億とは……

その意外性は司会者の表情を見れば一目瞭然。

ポカーンと開いた口が塞がらない。

「……さ、三億!三億が出ました!」

司会者の言葉に最前列の男はチッと舌打ちするが、それ以上の値をつり上げる事はしなかった。

「さ、三億でハンマープライス!」

司会者が叩く木槌の音が響くと、観客席からはうわぁ……と歓声が上がる。

飛鳥は今ほど父親を恨んだ事はない。

そう思いながら、スポットライトの当たるステージ上からゲージごとフェードアウトしていった。

最初に居た地下室に飛鳥を連れ去ったヤクザはもういない。

代わりに、男二人が入ってくる。

一人は飛鳥を落札した男。

もう一人は胡散臭そうな外国人。

「約束の三億だ」

落札した男はアタッシュケースに敷き詰められた札束を見せて言う。

「OK . タシカニ……」

外国人が頷いて金を受けとると、飛鳥が閉じ込められているゲージの鍵が開けられた。

「出ろ」

飛鳥は男の命令に黙って従う。

そうする他、ここを無事に出る方法は無いから。
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