一之瀬さんちの家政婦君
二人を乗せた黒塗りのベンツは、街のど真ん中にある地下駐車場へと入っていく。
飛鳥の事を落札した男も彼女の隣に座っている。
趣味の悪い仮面は遠の昔に外されて、今は素顔をさらしていた。
見れば見るほど整った容姿。
歳は飛鳥より七つ、八つくらい上だろうか。
車は停まり、運転手が先に降りて後部座席のドアを開けて待つ。
「降りろ」
男は飛鳥に命令する。
飛鳥は言われる通りに車から降りた。
シーンとした地下駐車場。
飛鳥たちがたてている靴音が空間に反響した。
二人が下車したのを確認すると運転手は深々とお辞儀して車内に戻り、地下駐車場を後にする。
「あの……これからどこへ行くんですか?」
飛鳥は今一番気になる疑問を投げかけた。
男からギロッと睨まれる。
何よっ……!
彼の態度に一瞬腹を立てたが、そこはグッと堪えた。
あんなところにいた人間を安易に刺激してはいけない。
何をされるか分からないから。