一之瀬さんちの家政婦君

***


翌朝、飛鳥が目覚めるとガランとしたマンションに一人きりだった。

たまたま目にしたカレンダーの日付に赤丸と共に“出張”という二文字が書き込まれている。

「一之瀬さん、今日から出張か……」

飛鳥は和真のシンガポール出張の予定を思い出して、ポツリと呟く。


昨日の事を謝り損ねちゃった……


彼女の心の奥にモヤモヤとした感情が泡のように浮き上がってきた。

出張や仕事で家を空けるのはよくある事で飛鳥自身も慣れているはずなのに、一方的なケンカをしてしまった後ではまるで気分が違う。

部屋の中はいつも以上に静かで、いつも以上の寂しさを感じた。

「パン食べよう……」

こんな時でも腹は減る。

“空気読んでよ……”と自身の腹に手を当てた。

そして、キッチンにあった食パンを一枚トースターに放り込んだ。
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