一之瀬さんちの家政婦君
――…って、そんなわけあるかい!
「やっぱり帰ります!そこをどいて下さい」
飛鳥は気丈に物申すと、彼の腕を無理矢理下におろして玄関へ戻る。
しかし、ドアが開かない。
ロックを解除する鍵らしきものも無い。
壊れてんじゃないの……
そう思い始めた時、ドアが突然に『暗証番号を入力し、指紋認証を行って下さい』と話し出す。
飛鳥はさすがにムッとして勢いよく振り返った。
「開けてよ」
「お前の命令を聞くとでも?」
「監禁罪で訴えるよ」
「訴えてみろ。ここから出られればの話だが」
「出れなくても電話で助けを求めれば……アレ……」
飛鳥は自分の荷物が一切無い事にようやく気付いた。
財布もスマホも学生証も何もない。
盗むのはこの男しかいないと決めつけると、ドカドカとわざと乱暴に歩いて男の前に戻った。
「アタシの荷物返して!」
「失敬な奴だな。お前の荷物など俺が盗んで何の得がある。大体、ステージにいた時から手ぶらだったろう」
悔しいが男の言う通り。
連れ去られた時に落としたか、ヤクザに持っていかれたか、考えられるのはこのくらいだ。